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神戸地方裁判所伊丹支部 昭和55年(ワ)192号 判決 1985年9月17日

原告

甲野花子

甲野太郎

右原告ら訴訟代理人

宗藤泰而

小貫精一郎

深草徹

被告

宝塚市

右代表者市長

友金信雄

右訴訟代理人

松井幹男

被告

太陽土地建物株式会社

右代表者

中村二夫

右訴訟代理人

神田定治

被告

慶野幸三

主文

一  被告らは原告甲野花子に対し、各自、金五四三三万六三六〇円とうち金四九三三万六三六〇円につき昭和五四年一二月一七日から、うち金五〇〇万円につき被告慶野幸三及び被告宝塚市においては昭和五五年九月一九日から・被告太陽土地建物株式会社においては同年一〇月九月から右支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは原告甲野太郎に対し、各自、金三三〇万円とうち金三〇〇万円につき昭和五四年一二月一七日から、うち金三〇万円につき被告慶野幸三及び被告宝塚市においては昭和五五年九月一九日から・被告太陽土地建物株式会社においては同年一〇月九日から右支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを四分し、その一を原告ら、その余を被告らの負担とする。

五  この判決は、第一、第二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告甲野花子(以下原告花子という)に対し、各自、金八四五五万円とこれに対する昭和五四年一二月一七日から右支払済まで年五分の割合による金員を、原告甲野太郎(以下原告太郎という)に対し、各自、金七七〇万円とこれに対する右同日から右支払済まで右同率の割合による金員をそれぞれ支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(被告ら)

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

原告花子は、昭和五四年一二月一七日午後二時ころ、自宅付近の宝塚市高司一丁目一二番一八号先市道(以下本件道路という)において、自転車に子供を乗せて押しながら通行中、被告慶野幸三(以下被告慶野という)運転の全油圧式大型パワーショベル(通称ユンボ、以下パワーショベルという)のボディ後部(エンジン部)で後頭部を強打され、頭部を右ボディ後部と住宅ブロック塀の間にはさまれ、顔面を表面粗度のきわめて高い右ブロック塀に約〇・四二メートルにわたつてこすりつけられた(以下本件事故という)。

2  責任原因

(一)(1) 本件事故現場の状況

本件道路は、住宅街を南北に走る幅員三・九メートルの市道であつて、道路西側には幅一・四メートルの水路が道路に沿つて南北に流れており、水路の西側には畑があり、温室用の鉄骨パイプ支柱が南北に向つて細長く建てられており、また、道路の東側には一戸建の住宅街があり、道路東端は高さ一・四メートルの表面に白色コンクリートが塗りこまれたブロック塀に接していた。

(2) 本件事故当時における被告太陽土地建物株式会社(以下被告会社という)の作業状況

① 被告会社が被告宝塚市(以下被告市という)から請負つた工事(以下本件工事という)は、公共下水道(第六工区)蔵人汚水幹線管路施設工事(宝塚市大吹町から高司一丁目までの南北市道全長四七〇メートルに直径五〇センチメートル、一本の長さ四メートルのビニール製下水道管を深さ約三メートルのところに埋設する工事)であつて、当初の工期は昭和五四年七月二日から同年一一月三〇日まで(請負金額金一九三〇万円)であつたが、追加契約がなされ、最終の工期は昭和五六年一月二四日まで(総請負代金額金二六〇六万円)であつた。

本件事故現場付近における工事は右工事の一環であり、当日の作業は、既にビニール製下水道管の埋設を終り、パワーショベル及び一一トンダンプカーを使用して、道路を整地するための路盤スキ取り作業であつた。

② 本件事故当時、パワーショベルは本件道路のやや西側寄りにその前方を北に向けて設置されており、パワーショベルの両側キャタピラ間の幅員は二・四メートルで、右側キャタピラと住宅ブロック塀との距離は〇・九五メートルしかなかつた(パワーショベルの南へ一・八五メートルの距離をおいて、一一トンダンプカーが車体後方を北に向けて停車していた)が、本件事故発生直前にも数人の歩行者が重機類とブロック塀の間を通り抜けて通行していた。

③ 被告慶野は、昭和五四年一二月一七日午後一時ころから、パワーショベルを操縦し、パワーショベル前方(北側)の路面をパワーショベルのバケットですき取り、その土砂をバケットにすくい、アームを西方に一八〇度旋回させてダンプカーの荷台に土砂をあける作業をくり返していた(パワーショベルのアームは、東側に住宅が近接していたため、東側に旋回させることはできなかつた)が、アームを西側に旋回させると運転席後方のボディ(エンジン部)は東側に旋回し、アームを九〇度旋回させたときのボディと住宅ブロック塀との間の距離は〇・一メートルとなつた。

なお、被告慶野がパワーショベルのアームを旋回させる操作は、後方に停車した一一トンダンプカー(荷台の高さ二・二メートル、車台の幅二・四八メートル)が停車しており、後方は死角となつてほとんど見えず、全くのめくら運転を強いられていたばかりか、西側の畑の中に建てられている温室用のパイプ支柱に接触するのを避けるため、前方ばかり見て行なわなければならなかつた。

④ 本件事故当時、路面のスキ取り作業に従事していたのは、パワーショベルの操縦席に坐つてバケット及びアームを操作していた被告慶野のほか、スキ取り作業を補助するため下請三井興業から派遣された人夫二名(パワーショベルの北側で作業していたが、その作業は路面の土砂をかき寄せることであつた)、被告会社の従業員一名(右二名と並んでパワーショベルの北西の位置におり、パワーショベルの動きを見ていた)、一一トンダンプカー運転手一名(運転席で待機し、新聞を読んでいた)の五名であり、原告花子が自転車を押しながら進行してきたパワーショベル及びダンプカーの南側には前記のとおりダンプカーの運転手が運転席にいただけで、誘導員はおろか、他の従業員もいなかつた(被告慶野は被告会社に対し、誘導員を置くよう申し入れたが、赤字を理由に断わられた)。

なお、本件工事中、歩行者に対し、通行禁止の措置はとられていなかつた。

⑤ 以上のような作業状態は、危険きわまりのないものであつて、本件事件当日本件事故現場を訪れたダンプカーの運転手をして、事故発生の危惧感を抱かしめるような状態であつた。

(二) 被告慶野の責任

被告慶野は、前記のとおりパワーショベルを運転していたものであるが、前記状況下においてパワーショベルを運転するに際しては、通行人等の生命身体を毀傷しないよう通行人等の動静を十分注視してパワーショベルを操作すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然とパワーショベルを運転した過失により本件事故を惹き起こしたものであつて、民法七〇九条所定の責任がある。

(三) 被告会社の責任

被告会社は、その従業員である被告慶野をしてパワーショベルを運転させていたものであるところ、前記状況下における右作業は通行人等の生命身体を毀傷する危険性の極めて高いものであつたから、誘導員・監視員を配置するなどして通行人等の安全を図るべき注意義務があるのにこれを怠り、誘導員等を置かず(後述被告市の責任①)漫然と工事を施行した過失により本件事故を惹き起こしたものであつて、民法四四条所定の責任がある。

(四) 被告市の責任

(1) 責任の基礎として考慮されるべき事実

① 被告市と被告会社との間において、本件工事契約が締結された経過は次のとおりである。

イ まず、被告市の下水道建設課技術吏員(主査)の高橋修一(以下、高橋吏員という)において、本件工事を設計し、設計図、仕様書を作成のうえ(施工日数は一五〇日と算定された)、併せて工費種別ごとに見積価格を積算し、設計価格を算出した。

ロ 次いで、被告市の理財課によつて入札が行なわれ(入札に参加してきた業者数は八社であつた)被告会社が一九三〇万円で落札した。

ハ 本件契約書第二条一項によると、工事を請負つた業者は、被告市の作成した「図面、設計書および仕様書にもとづき、工事費内訳明細書および工程表を作成し、この契約締結の日から五日以内に甲(被告市)に提出して、その承認を受けなければならない」とされており、同条二項は、被告市において「工事費明細書及び工程表の提出をうけたときは、直ちにこれを審査し、適当と認めたときは承認を与えるものとする。不適当と認めたときは、その理由を明示し、かつ期日を指定して再提出を求めることができる」と定めているが、被告市は本件工事につき工程表は提出させたものの、工事費内訳明細書は提出させなかつた(このため、被告市は、被告会社が安全費等にどの程度の費用を見積つているか―したがつて、どのような安全対策をとつているか―確認していない)。

② 本件工事は、その後三回にわたつて追加工事が発注され、工期も延長されたが、その請負金額は入札によつては決定されていない。

③イ 高橋吏員の算出した設計価格のなかには「安全費」の費用が含まれているが、その金額は金三〇万円であつた(「安全費」のなかには、立看板・保護柵の費用、警察への届出諸費、監視の諸々の費用、安全巡視費としてガードマン雇用の費用が含まれる)。

ロ しかし、本件工事の工期は一五〇日と算定されていたから、後記④のとおりガードマンの一日に一人当りの日当が金八三〇〇円であるとすると、右安全費は一八日分のガードマン二人雇用の費用にすぎないから、高橋吏員の算出した設計価格は著しく不当であつた。

④イ 本件工事の着工後、被告会社は、訴外津山警備保障からガードマンを一名ないし二名採用しながら工事を続けていたが、昭和五四年一一月一二日ころ、「道も少し広くなるし、ガードマンを雇つていては赤字」になるとして、それ以降ガードマンの採用を打ち切つた(被告会社が、津山警備保障に対し同年七月三〇日から前同日まで支払つたガードマン雇用の費用は合計一一二万六六〇〇円であつて、一日一人当たりの日当は八三〇〇円ないし九三〇〇円である)。

ロ 被告市は、被告会社との間の本件工事契約に基づき、高橋吏員を監督員に指名し、同人をして本件「工事の進行状況や事故防止の指導」をさせていたが、高橋吏員は、三日に一度の割合で本件工事現場に巡回しており、右事実を知つていた(現に、高橋吏員は被告慶野に対し、なぜガードマンをつけないのか聞いている)。

なお、高橋吏員は、本件事故の直前にも、本件工事現場付近に来ている(しかし、善処方を求めるなど、なんの対策もとつていない)。

(2) 法的評価

① 本件道路は、被告市の管理にかかるものであるところ、前記のとおり、本件道路において、巨大な重機が、通行人の通行を禁止せず、看板、バリケードなどの設置もなく、交通誘導員を置くことも、また重機運転者に補助者をつけることもなく作業が行なわれていたものであつて、道路が「通常有すべき安全性」を欠いていたことは明らかであるから、被告には、国家賠償法第二条所定の責任がある。

② 被告市は、被告会社に対し本件工事を請け負わせていたものであるところ、前記のとおり、本件工事の危険性を熟知していたものであるから、本件工事の発注に際しては、請負人に対し工事の危険性を十分指摘して認識させ、事故防止のため具体的な指示をすべきであつたにも拘らず、前記((1)の①ないし③)のとおりこれを怠り、また、工事施行中も指示監督すべきであつたにも拘らず、前記((1)の④)のとおりこれを怠り、本件事故を惹き起こしたものであつて、本件工事の注文または指図に過失ありというべきであり、被告市には、民法七一六条但書所定の責任がある。

3  原告らの損害

(一) 原告花子の治療状況

原告花子は、本件事故により顔面割挫傷、後頭部割創、上顎骨々折、下顎骨々折、前頭部骨折、鼻根骨々折、第七ないし第一〇肋骨々折、下唇部欠損、上唇部挫滅傷等の傷害を受け、本件事故日以降、兵庫県立西宮病院、住友病院、大阪大学歯学部付属病院において次のとおり治療をうけた。

(入院)

兵庫県立西宮病院 昭和五四年一二月一七日から昭和五五年一月二一日(三六日)昭和五六年三月三〇日から同年四月二二日まで(二四日)

住友病院 昭和五五年一月二一日から同年二月二一日まで(三一日)同年五月二七日から同年六月五日まで(一〇日)

入院日数合計 一〇一日

(通院)

兵庫県立西宮病院 一五七回

住友病院 眼科 四〇回 形成外科 四三回 耳鼻科 三一回

大阪大学歯学部付属病院 六一回

以上三病院の重複した通院日を一回と計算した実通院日数は二四七日

(二) 後遺障害の程度

右治療にもかかわらず、原告花子の症状はほぼ昭和五八年一二月ころには固定し、次の後遺障害を残すにいたつた。

(1) 著しい外貌醜状

原告花子の顔面の醜状は、単に「顔面部にあつては、鶏卵大面以上の瘢痕、長さ五センチメートル以上の線状痕又は一〇円銅貨大以上の組織陥凹」(昭和五〇年九月三〇日労働省通達基発第五六五号、労災保険障害等級認定基準のなかの「外ぼうにおける著しい醜状」の認定基準)などという生易しいものではなく、外貌全体を形どる上顎骨の骨折、鼻の形状を形づくる鼻根骨々折によつて顔面全体の形状は突起のないディッシュフェイス、サドルノーズとなり、靭帯の切損によつて眼の位置は弛緩したまま鼻にひき寄せられず「間の抜けた」印象を与えており、また、下唇部欠損によつて下顎部はひきつれた醜状痕を残し、両眼付近には擦過傷が瘢痕収縮を起こし、長い線状痕を残しているほか、色素沈着によつて両眼の間付近を中心に大きな瘢痕が生じている。

以上のとおり、原告花子の顔面は、その全体が事故前に比して一変し、到底同一人とは思われないほどの醜状を呈するに至つている。

(2) 機能障害

① 眼

右眼は、涙鼻管が破壊されたため四六時中涙がとまらず(正確には涙が回収されない)、このため右眼にはたえず膿がたまり、ひどい時には、「五、六分置きに」膿が出る。しかも、右眼は、完全に開眼できないと同時に完全に閉眼せず、このため目の炎症を起こしやすい。また、視力は低下し、上顎骨の骨折によつて眼球の動きが制限され、複視となり、同時に視野障害を起こしている。

② 鼻

鼻の篩骨々折によつて臭覚が失われ、たえず鼻づまりを起こし、時には鼻血が出る。

③ 耳

耳管閉塞によつて両側の難聴(とりわけ、右側が非常に難聴)になり、日常生活には補聴器の助けを必要とするほか、耳鳴りもはげしく、主に左耳はセミがじやんじやんないているようであり、右耳もブーンブーンという音が重なつて聞こえる。

④ 頭痛、背部痛、頸部痛

背部に強い外力が加えられたことによつて、肋骨々折を起こしたと考えられ、たえず頸部痛、背部痛、頭痛、偏頭痛に悩まされる。

⑤ 顔面の知覚鈍麻、歯のかみ合わせの不整合

顔面の第五神経麻痺によつて、顔面左目下の半分は知覚が鈍麻し、涙が流れてもわからず、頭部右半分も同様である。上顎骨の骨折によつて、上下の歯のかみ合わせが整合しない。

⑥ 自律神経失調

以上各種の重篤な傷害によつて、熟睡ができず、食欲はなく胃痛に悩まされ、精神状態は安定せず、自律神経失調症に陥つている。

(三) 原告花子に生じた損害

(1) 治療関係費

次の①ないし④の合計金六五四万三一三三円のうち金六五四万円

① 治療費

兵庫県立西宮病院 金四一一万一七三六円

住友病院 金一六五万五二一〇円

大阪大学歯学部付属病院 金六二万四八〇七円

原告花子は、以上合計金六三九万一七五三円から、被告会社が支払つた金二四八万四五二〇円(西宮病院に対し金一三〇万円及び住友病院に対し金一一八万四五二〇円)と社会保険からの支払分金一八四万一九八七円を控除した残額金二〇六万五二四六円を支出した。

また、原告花子は、本件訴訟提起前から被告会社が治療費の支払をしなくなつたため、社会保険による療養の給付に頼らざるをえなくなつた(昭和五六年五月社会保険療養費の支給申請に当たり、三宮社会保険事務所長に対し、本件訴訟終了後、社会保険から支払われた療養費を返還する旨を約した)が、社会保険が支出した治療費は、右のとおり金一八四万一九八七円である。

② 入院付添費用

原告花子の前記入院期間中、たえず近親者が付添いをしたが、その費用は、一日当たり金三〇〇〇円として金三〇万三〇〇〇円(三〇〇〇円×一〇一日)をくだらない。

③ 入院雑費

原告花子は、前記入院期間中雑費として一日当たり金一〇〇〇円の割合による金一〇万一〇〇〇円を支出した。

④ 通院交通費等

原告花子は、前記のような重大な傷害を被つたため一人では、また通常の交通機関では通院することができず、原告太郎の運転する車両に乗せられて通院したが、昭和五六年七月ころには、通院のため寝台付ワゴン車を購入することを余儀なくされた。

イ 高速道路通行料、ガソリン代として一回当たり金二〇〇〇円の割合による金四九万四〇〇〇円(二〇〇〇円×二四七日)

ロ ワゴン車購入代金として車両下取り価額を控除して現金で支払つた金一三六万七四〇〇円

ハ 付添費用 一日当たり金一五〇〇円の割合による金三七万〇五〇〇円(一五〇〇円×二四七日)

(2) 休業損害

原告花子は、前記傷害により本件事故日から症状固定にいたる昭和五八年一二月ころまでまつたく育児、家事労働に従事できず、その間近親者による代替労働を必要としたのであつて、代替労働費は女子雇傭労働者の平均賃金相当額をくだらない。

よつて、休業損害は、昭和五四年賃金センサス第一巻第一表、産業計、企業規模計、学歴計の全年齢女子労働者平均賃金の年間合計金一七一万二三〇〇円を基礎とし、その四年分は金六八四万九二〇〇円となる(原告は、本訴において右損害のうち金六八四万円を請求する。)。

(3) 後遺症による逸失利益

原告花子は、昭和五四年一二月当時二七才の健康な女性であつて、将来は東大阪短期大学服飾デザイン科を卒業した知識を生かしてデザイナーの仕事に従事する希望を持つていたが、事故当時は主婦として育児、家事に従事していたものであつて、前記の後遺症により労働能力の少なくとも八〇パーセントを喪失した(原告花子の後遺障害は、仮に外貌醜状の点を除いても、その余の後遺障害だけで自動車損害賠償保障法施行令二条後遺障害別等級表五級「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」に相当する)。

家事労働に従事する主婦は、平均的労働不能年齢に達するまで、女子雇傭労働者の平均賃金に相当する収入をあげるものと評価されるべきであるから、原告花子の逸失利益は、次の算式により金三四二二万七四四四円となる。

① 女子労働者平均賃金

昭和五八年賃金センサス第一巻第一表、産業計、企業規模計、学歴計、女子労働者平均賃金年間合計金二一一万二〇〇〇円

② 就労可能年数 三六年(症状固定時から)

③ ホフマン係数 二〇・二七五

④ 算 式

2,110,200×0.8×20.275=34,227,444

(原告花子は、本訴において右逸失利益のうち金三四二二万円を請求する)

(4) 慰藉料

原告花子の受けた傷害と後遺症は、女性にとつてもつとも大事な顔貌を完全に破壊されたものといつてよく、その他の後遺障害の部位はほとんどすべて頸部より上の身体部分に集中し、その部分の人間の中枢的神経機能をほとんど侵害され、これによつて被る日々の精神的苦痛は文字どおり筆舌に尽くし難いものであるから、本件事故による受傷及び後遺症により被つた精神的苦痛に対する慰藉料は金三〇〇〇万円が相当である。

(5) 損害の填補

原告花子は、損害の填補として被告会社から金六五万円の支払を受けた。

(6) 原告らは、本訴の提起、追行を原告ら訴訟代理人に委任し、弁護士会の規定に従い、請求金額の約一割相当の金七六〇万円をくだらぬ報酬を支払う旨約した。

(四) 原告太郎に生じた損害

(1) 慰藉料

原告太郎は、原告花子の配偶者であるが、昭和五一年結婚以降円満な家庭生活を続けてきたものであるところ、本件事故により、原告花子のうけた傷害と後遺障害とそれによる同人の精神的苦痛を見るにつけ、また、自らが味わう苦痛、悲しみはまことに甚大なものがあり、同人の苦痛は、「被害者が生命を侵害された場合にも比肩すべき、または右の場合に比して著しく劣らない程度」のものであるから、同人の精神的苦痛に対する慰藉料は金七〇〇万円が相当である。

(2) 弁護士費用 前記同様金七〇万円を下らない。

4  結語

よつて、原告花子は被告ら各自に対し、右(三)の(1)ないし(4)の損害合計額から(5)の填補額を控除し、その残額に(6)の金額を加えた金八四五五万円及びこれに対する不法行為の日である昭和五四年一二月一七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、原告太郎は、被告ら各自に対し全七七〇万円及びこれに対する右同日から支払ずみまで右同率の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告会社)

1 請求原因1の事実は認める。

2 請求原因2の事実のうち、

(一) 同(一)(1)の事実は認める。

同(一)(2)の事実のうち、①の事実は認める、②の事実のうち右側キャタピラと住宅ブロック塀との間の距離が〇・九五メートルであることは否認する(一・〇五メートル)が、その余は認める(なお、道路西側も通行可能であり、通行人は同所を通行していた)、③の事実のうちアームを九〇度旋回したときのボディと住宅ブロック塀との距離及びパワーショベルの操作がめくら運転であことは否認し、その余は認める、④の事実のうち誘導員等を配置していなかつたこと及び赤字を理由に被告慶野の申し入れを拒否したことは否認し、その余は認める。

(二) 同(二)の事実は否認する。

(三) 同(三)の事実のうち、被告会社が被告慶野をしてパワーショベルを運転させていたことは認めるが、その余は否認する。

3 請求原因3の事実のうち、被告会社が治療費として金二四八万四五二〇円及び慰藉料金六五万円を支払つた(その余の支払いについては後述抗弁)ことは認めるが、その余は否認する。

(被告慶野)

被告会社の認否に同じ。

(被告市)

1 請求原因1の事実は認める。

2 請求原因2の事実のうち、

(一) 同(一)(1)の事実は明らかに争わない。

同(一)(2)の事実のうち、被告会社が認める部分は被告市においても明らかに争わない。

(二) 同(四)(1)の事実のうち、①のイないしハ(ただし、カッコ内を除く)、②、③のイの事実は明らかに争わないが、その余は否認する。

安全費は、入札価格を決めるため、国の定める基準に従つて決定されるものであるところ、その価格は請負業者に知らされておらず、したがつて請負業者においては、右価格と無関係に安全対策を講じ、費用の出捐をしなければならない。

なお、被告市は、高橋吏員をして工事を監督させていたが、監督員の職務は工事が仕様書のとおり実施されているかどうかを技術的に監督するものであつて、請負業者の現場作業を指導監督するものではない。

同(四)(2)①の事実は否認する。本件事故は、道路管理者である被告市の道路管理とは関係がない。すなわち、道路の通常有すべき安全性とは、客観的に道路そのもののもつ物理的な構造、強度等が当該道路の目的からみて通常の使用に支障がないことをいうものであり、道路工事に伴なうパワーショベルの運転が通行人等の生命身体に危険を及ぼすことがあつても、国家賠償法第二条所定の責任は生じない。

同(四)(2)②の事実は否認する。

被告市には、本件工事に関し、なんの過失もない。すなわち、

① 被告会社は、昭和四八年ころから、一般土木工事、道路工事等に従事し、昭和五四年六月三〇日までの間に総計六〇件余の事業実績を有する専門業者であつて、発注者たる被告市においては、本件工事に際し、工事の種別、内容に応じた相応の注意、指示をなせば足りたものである。

② 被告市は被告会社に対し、交通安全に関し、特記仕様書により、次のような指図をなしている。

イ 請負人は、所轄警察署長による道路使用許可条件及び「工事現場における保安施設等の設置基準」について、末端作業員を含め、本件工事関係者全員に周知徹底させなければならない。

ロ 作業場出入口、通学路、迂回路、交通量の多い道路などには必要に応じ交通誘導員を配置し、また、これらのほか、作業中の重機付近にも、適宜、交通誘導員を配置し、歩行者及び通行車両の安全を確保しなければならない。

③ しかるところ、被告会社は、右指図に従い、宝塚警察署長の道路使用許可を受け、作業場出入口に車両通行止の柵を立て、交通誘導員も配置した。

本件事故時にも、パワーショベル付近に、交通誘導員一名が配置されていた。

3 請求原因3の事実は否認する。

三  抗 弁

(被告ら)

1 原告花子は、本件事故前に、幾度となく本件事故現場付近を通行していたものであり、パワーショベルが動き始めると通行に危険であることを熟知していたものであるところ、パワーショベルの動静を十分注視せず、漫然と本件道路を通行したものであるから、同原告には重大な過失があり、相当額の過失相殺がなさるべきである。

2 被告会社は原告花子に対し、原告主張の治療費金二四八万四五二〇円及び慰藉料等金六五万円のほか、諸雑費金二〇〇万円を支払つた。

四  抗弁に対する認否

(一)  抗弁1について

(1) 民法上の過失相殺制度は、実質的に対等な当事者間の損害の填補にあたり、損失の公平な分担を計るという観点から、被害者側に非難されるべき過失があつたとき、それを具体的に考慮して賠償額を制限あるいは修正して公平な解決をはかる制度である。そこにいう被害者の過失とは、単に損害の発生、増大に原因を与えただけでは足りず、「何らかの意味で非難され責められるべき要素を包含していることを要する」と解すべきである。

(2) しこうして、本件においては、交通事故における加害者と被害者のように、その相互の地位の互換の可能性は考えられないのであつて、道路上で作業する巨大重機の運転者、その使用者と一歩行者とは、実質的に対等な当事者とはいえない。

(3) また、原告花子の行為に「非難され責められるべき要素」はない。

すなわち、原告花子の自宅は、本件市道のT字状交差点の奥にあつて、本件事故現場を通らない限り、外出から帰宅することはできないが、原告花子は、わざわざ本件工事現場を避けようと迂回し、本件市道の南側から進行したところ、まさに本件工事がT字状交差点の北側・南側にまたがつて行われていたため、本件事故現場を通過せざるを得なかつたものであり、そこには通行を禁止するような標識類はなく、被害者たる原告花子に本件事故につき責められるべき点は全くない。

(4) したがつて、被告らが通常人では信じられないような危険な方法で重機の作業を行ない、本件市道の現場付近を危除極まりない状態におき、しかも、その工事によつて利益をあげておきながら、そこを通過せざるをえなかつた歩行者たる原告花子に過失ありとすることは、過失相殺制度の趣旨と全くあい容れないものである。

(二)  抗弁2について

抗弁2の事実は否認する。

第三  証拠関係<省略>

理由

一本件事故の発生

請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二責任原因

1  本件事故現場の状況

請求原因2(一)(1)の事実は当事者間に争いがない。

2  本件事故当時における被告会社の作業状況

<証拠>によると、以下の事実が認められ、<証拠>中右認定に反する部分は措信できない。

(一)  本件工事契約の内容等に関する事実は、請求原因2(一)(2)①記載のとおりである(この点は、当事者間に争いがないか、明らかに争わない)。

(二)  本件事故当時における重機類等の配置状況等に関する事実は、請求原因2(一)(2)②記載(ただし、右側キャタピラと住宅ブロック塀との間の距離は一・〇五メートルである)のとおりである(この点は、当事者間に争いがないか、明らかに争わない)。

因みに、被告会社は、歩行者が通つていたのは道路の西側であるとするが、同側はパワーショベルのアームが旋回する側であり、東側に比してより安全だつたとは認め難い(なお、事故直前、訴外堂本佳之が東側を通つていることは明らかである)。

なお、右の状況を図示すると、別紙図面(一)のとおりである。

(三)  本件事故当時におけるパワーショベルの操作状況に関する事実は、請求原因2(一)(2)③記載のとおりである(この点は、パワーショベルのボディと住宅ブロック塀との間の距離及びパワーショベルの操作がめくら運転であつたことを除き当事者間に争いがない)。

なお、右の状況を図示すると、別紙図面(二)のとおりである。

(四)  本件事故当時の作業員等の配置に関する事実は、請求原因2(一)(2)④記載のとおりである(この点は、作業員の位置関係につき当事者間に争いがない)。

(五)  以上によると、被告慶野は、本件事故現場に土砂運搬のため来たダンプカーの運転手をして、「このような状態で事をしていると事故が起こるのではないかと感じていた」と言わしめる状況の下で作業していたものであり、一見して無謀な作業をしていたものといわざるを得ない。

3  被告慶野の責任

前記認定の諸事実によると、請求原因2(二)記載のとおり認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

更にいえば、前記認定のとおり同被告にはパワーショベルの後方がほとんど見えなかつたのであるから、同被告としては、後方を注視するのみでは足りず、他の作業員が通行人を誘導してくれるまでパワーショベルの運転を中止すべきであつたというべきである。

4  被告会社の責任

前記認定の諸事実によると、請求原因2(三)記載のとおり認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

5  被告市の責任

(一)  本件工事発注から事故発生に至るまでの経緯

前記認定の諸事実並びに<証拠>によると、以下の事実が認められ、<証拠>中右認定に反する部分は措信できない。

(1) 本件工事契約が締結された経緯は、以下のとおりである。

① まず、被告市の下水道建設課の技術吏員である高橋吏員が本件工事の設計(工期一五〇日)をなし、設計図、仕様書を作成し、工費種別ごとに見積価格を積算し、設計価格を算出した(この点は、当事者において明らかに争わない)。この点において、全くの素人が工事を発注するのと著しく異なつている。

② 次いで、被告市の理財課において入札が行なわれ、入札業者八社の中から被告会社が金一九三〇万円で落札した(この点は、当事者において明らかに争わない)。落札価格の妥当性については、十分な主張立証がない。

③ 被告市は、被告会社に対し、工程表を提出させたが、工事費用の内訳明細書は……契約上、「(被告市の作成した)図面、設計書および仕様書にもとづき、工事内訳明細書および工程表を作成し、この契約締結の日から五日以内に甲(被告市)に提出して、その承認を受けなければならない」とされており、「(被告市において)工事費明細書および工程表の提出をうけたときは、直ちにこれを審査し、適当と認めたときは承認を与えるものとする。不適当と認めたときは、その理由を明示し、かつ期日を指定して再提出を求めることができる」にも拘らず……提出させていない(これを提出させておれば、予算的裏付けがあるかどうか、予算的に無理がないかどうか……将来赤字を招き、安全対策に支障を生ずる虞れがないかどうか……をチェックし得たであろう)。

(2) その後、三回にわたり追加工事が発注され、工期も延長された。

(3) 被告市の設計価格には、金三〇万円の安全費(立看板、保護柵の費用、警察への届出諸費用、監視の費用、安全巡視費としてのガードマン雇用の費用)しか見積られていないから、被告市の設計価格どおりに工事を行なうと、十分な安全対策はとり得ない(因みに、被告会社が支払つた安全費は、ガードマン雇用の費用だけでも金一一二万〇六六〇円である)。この点は、落札価格の妥当性を検討するうえで、重要なファクターである。

(4) 本件工事着工後、被告会社は、警備保障会社からガードマン一名ないし二名を採用しながら工事を続けていたが、昭和五四年一一月一二日ころ、「道も広くなるし、ガードマンを雇つていては赤字」になるとして、ガードマンの採用を打ち切つた(被告慶野によると、一〇年間重機の運転をしているが、これまでにガードマンをつけずに作業したことはなかつたという)。

(5) 被告市は、本件工事契約に基づき、高橋吏員を監督員に指名し、同人をして本件「工事の進行状況や事故防止の指導」をさせていたが、三日に一度くらいの割合で本件事故現場を巡回しており、同人において被告慶野に対し、「なんでガードマンをつけんのや」と尋ねていることからも、本件工事が極めて危険な状態で行なわれていることを知つていたことは明らかであるが、これに対しなんらの措置もとつていない(被告市は、監督員の職責は工事が仕様書のとおり実施されているかどうかを技術的に監督することのみにあつたとするが、本件工事契約書第九条二項によると、「工事費内訳明細書および工程表を審査し」との内容を工事施行に適合するよう指示すること、とされているから、同条の解釈上も、工事費内訳明細書……本件では提出させていないが……に従つた安全対策がとられているかどうかをチェックし、不備があれば指示する職責を有していたものと解される。しからずとしても、高橋吏員が、前記事実を知つていたことは、被告市に、本件事故を回避する可能性があつたものといわざるを得ない)。

(二)  法的評価

(1) 国家賠償法第二条の責任について

同法にいう営造物の設置または管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいうものと解すべきところ、「道路の瑕疵の有無の判断は、当該道路の地理的条件、道路の構造と状態、道路の地質的、気象的条件、事故の態様と規模などを手掛りに進め、管理権者の管理作用の不完全の判断は、認定された道路の瑕疵との関連で、事故の前後を通じて管理権者がとつた管理の内容によることになる」(古崎慶長・国家賠償法の理論二〇六頁)が、前記認定の諸事実のほか、本件各証拠から窺える諸事実によつても、いまだ同法所定の責任を肯認するには足りない。

(2) 民法七一六条但書の責任について

本来請負は請負人をしてその裁量において仕事を完成させるものであり、注文書は、原則として請負人の不法行為につき責任を負わないが、「注文又ハ指図ニ付キ注文者ニ過失アリタルトキ」は責任を負うとされている(民法七一六条但書)。

しかし、注文・指図の要件の解釈が厳格にすぎると、請負制度の本旨には適うが、被害者救済の途を余りにも狭くすることになる。

そもそも、「如何なる場合でも、請負工事によつて第三者に損害を与えることは絶対に許されないのであるから、社会通念上注文者において、当該請負工事により第三者に損害を与えることが一般的に予想され得るものである限り、請負人のみならず注文者も、可能な限り、右被害の発生を防止すべき義務があり、これを怠れば、注文又は指図について注文者に過失があると解する方が、損害賠償制度を支配する公平の原則に合致する」(後藤勇・判例タイムズ三八九号三三頁)といつた指摘もある。

およそ、民法七〇九条以下の諸規定の法意に照らすと、注文者において、結果発生の可能性が予測され、適切な指図・監督をなせば、結果発生を回避し得たにも拘らず、これを怠り、結果を発生せしめたる場合においては、注文または指図につき過失ありたるものと解するのが相当であろう。

そこで、これを本件についてみるに、前記認定によると、

①  まず、第一に、被告市は、自ら設計図、仕様書等を作成し、被告会社の工事費内訳明細書、工程表を検討してこれを修正する権限と能力をもつていたものであつて、本件工事に実際上強い監督的立場にあつたものであるところ、本件工事が通行人等に危険を及ぼすものであることを知り、細かな指図をしながら、被告会社において右指図に従い、必要な予算的措置をとつているかどうかについては全く調査していないこと

②  第二に、被告市の高橋吏員は、監督員として本件工事現場を巡回しており、被告会社がガードマンをつけず作業しているのを知つていながら、なんの措置もとつていないこと

③  しこうして、本件事故は、赤字を理由にガードマンの採用が打ち切られ、無謀な作業が続けられていたため惹き起こされたものであるところ、被告市において、右①、②の適切な措置をとつておれば容易に右結果の発生を回避し得たものであること

等が明らかであるから、これらの事実に徴すると、被告市は、本件事故の発生につき予見可能性を有しており、適切な措置をとることによつて容易にこれを回避し得たにも拘らず、これを怠つたものであつて、注文者として、その注文又は指図について過失がありたるものというべきである。

三原告らの損害

1  原告花子の治療状況

<証拠>によると、原告花子の治療状況は、請求原因3(一)記載のとおりであると認められる。

入院日数  一〇一日

実通院日数 二四七日

2  後遺症の程度

<証拠>によると、原告花子の後遺症の程度は、請求原因3(二)記載のとおりであると認められる。

3  原告花子に生じた損害

(一)  治療関係費 金六五四万円

前記1掲記の証拠のほか、<証拠>によると、請求原因3(三)(1)記載のとおりであると認められる。

(1) 治療費 金三九〇万七二三三円

同費用として、金六三九万一七五三円を要したが、被告会社が内金二四八万四五二〇円を支払つた。

なお、社会保険から金一八四万一九八七円が支払われているが、原告花子は、本件訴訟終了後右金額を返還しなければならない。

(2) 入院付添費用 金三〇万三〇〇〇円

原告花子の入院中、たえず近親者が付添をしたが、その費用は、一日当り金三〇〇〇円として金三〇万三〇〇〇円(三〇〇〇円×一〇一日)を下らない。

(3) 入院雑費 金一〇万一〇〇〇円

原告花子が入院中要した雑費は、一日当り金一〇〇〇円として金一〇万一〇〇〇円(一〇〇〇円×一〇一日)を下らない。

(4) 通院交通費等 金二二三万一九〇〇円

原告花子は、前記のような重篤な傷害のため、特殊な車で通院するほかなく、次のような出捐を要した。

① 高速道路通行料、ガソリン代として出捐した費用は、一日当り金二〇〇〇円として金四九万四〇〇〇円(二〇〇〇円×二四七日)を下らない。

② ワゴン車購入代金として(車両下取価格を控除)金一三六万七四〇〇円を出捐した。

③ 付添費用 同費用は、一日当り金一五〇〇円として金三七万〇五〇〇円(一五〇〇円×二四七日)を下らない。

(二)  休業損害 金六八四万九二〇〇円

前記1掲記の証拠及び当裁判所に顕著な事実によると、請求原因3(三)(2)記載のとおりであると認められる。

(171万2300円(年収)×4(年間)S.54.賃金センサス

=684万9200円)

(三) 後遺症による逸失利益金三四二二万円

前記1掲記の証拠及び当裁判所に顕著な事実によると、請求原因3(三)(3)記載のとおりであると認められる。

(211万0200円(年収)×0.8

S.58.賃金センサス 労働能力喪失率

×20.275=3422万7444円)

新ホフマン係数

(四) 慰藉料 金一五〇〇万円

前記1掲記の証拠によると、請求原因3(三)(4)記載のとおり、原告花子が本件事故による受傷及び後遺症により被つた精神的苦痛は、同人の左記の供述から明らかなごとく、まさしく死に勝るものであつて、慰藉料は金一五〇〇万円で相当である。

「入院中、発作的に自殺をしようと思つたことがあり、母が止めてくれましたが、自宅へ帰つて一、二年は、どうやつて自殺しようかといろいろ考えていましたが、死にそこなつてからはうまく行かないのでやめましたけど、しんどくなるとまた思います」(原告花子本人尋問調書一二・一三丁)。

(五)  過失相殺

前記のとおり、本件事故は、被告慶野及び被告会社の重大な過失により惹起されたものであるが、前記認定の諸事実によると、原告花子において、今少しパワーショベルの動静に注意しておれば本件事故を回避し得たものと認められるところ、原告ら指摘の諸事情(抗弁に対する認否(一)(1)ないし(3))を考慮すると、二割の過失相殺が相当である。

(六)  損害の填補

(1) 被告会社が原告花子に対しこれまでに金六五万円を支払つた事実は、原告花子において自認するところである。

(2) 被告らは、被告会社において右のほか金二〇〇万円の諸雑費を支払つた旨主張し、<証拠>によると、被告会社において相当額の出捐(飲食物、コップ、紙おむつ等を買つたほか、原告花子の母親を二回ほど淡路まで車で送つたりしている)をしている事実は認められるが、特定に欠けるとともに、その趣旨も明らかでないので、原告花子請求の入院諸雑費相当分金一〇万一〇〇〇円を超えて被告らの右主張を採用することはできない。

(七)  まとめ

以上によると、被告らが賠償すべき金額は、以下の計算式のとおり、金四九三三万六三六〇円である。

(654万円+684万9200円+3422万円

前記(一)  前記(二)   前記(三)

+1500万円)×0.8−75万1000円

前記(四) 過失相殺 損害填補

=4933万6360円

(八)  弁護士費用

原告花子が、本件代理人に本訴の追行を委任し、請求原因3(三)(6)の支払約束をした事実は弁論の全趣旨に照らし明らかであるところ、本件事案の難易、審理経過、本訴認容額等に鑑みると、原告花子が被告らに対し請求し得る弁護士費用は、金五〇〇万円が相当であると認められる。

4  原告太郎に生じた損害

1 慰藉料

前記1掲記の証拠によると、請求原因3(四)(1)記載のとおり、原告太郎が本件事故により被つた精神的苦痛は、同人の左記の供述から明らかな如く、察するに余りあるものであつて、慰藉料は金三〇〇万円が相当である。

「離婚、自殺、一家心中等いろいろ考えましたが、できないということで頑張つてきています」(原告太郎第一回本人尋問調書第八丁)。

2 過失相殺

本件において、原告太郎の過失を論ずる余地はない(なお、原告花子の過失は、慰藉料算定の一事情として考慮した)。

3 弁護士費用

前記認定の諸事実によると、本件において、原告太郎が被告らに対し請求し得る弁護士費用は金三〇万円が相当であると認められる。

四結 語

以上によると、

原告花子の本訴請求は、金五四三三万六三六〇円と、うち弁護士費用を除いた金四九三三万六三六〇円に対する本件事故の日である昭和五四年一二月一七日から、うち弁護士費用である金五〇〇万円に対する履行期後である昭和五五年九月一九日(被告会社については同年一〇月九日)から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、

原告太郎の本訴請求は、金三三〇万円と、うち弁護士費用を除いた金三〇〇万円に対する本件事故の日である昭和五四年一二月一七日から、うち弁護士費用である金三〇万円に対する履行期後である昭和五五年九月一九日(被告会社については同年一〇月九日)から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、

訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官佐藤嘉彦)

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